「シンセ音作のコツ」プリセット音色を変えてみよう
こんにちはサカウエです。突然ですが音色当てクイズです。
第一問:これは何の楽器の音でしょうか?
このEmのサウンド・・・どこかで聴いたことのある方もいらっしゃるかもしれません・・そうです「ジョジョの奇妙な冒険のオープニング」でも使われたYesの「ラウンドアバウト」のイントロです。さて、実はこの楽器はある身近な楽器を加工したものだったということをご存じですか?(プログレ好きには常識?)
正解はこれ。
なんと実はこれ、ピアノの和音を逆回転させたものだったんですね。
昔はビートルズを始め様々なバンドが「逆回転サウンド」を実験的に使用していた時期がありました。もちろん当時はサンプラーなんて便利なものはありませんので、アナログ・テープを逆再生し、別のレコーダーにダビングするという面倒くさいことをやっていたわけですなー(遠い目)。
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さて、このピアノ・サウンドを波形で見てみると
ノーマルなピアノ
逆回転(リバース)
いかがですか?ノーマルの場合、最初に「バーン」と音が出てからジョジョに減衰していきますが、逆回転の場合はだんだんと音が大きくなってバスっと消えるサウンドになっています。この音の出だしの違いでまったく別物の楽器に聞こえてしまうということを覚えておいてください。
それでは本題。
近年のシンセサイザーにはピアノ、ギター、ストリングス、ブラス、ドラム、パーカッションなどのアコースティック楽器をはじめ、シンセ系、効果音、等々さまざまな種類の音色が最初から入っています(これを「プリセット音色」といいます)。1000以上のプリセット音色を収録した機種も最近では当たり前になっていますね。
これだけの音色が用意されていればどんな音楽ジャンルでも対応OKという気がしますが・・・実はそんなに甘い話ではないのです。
コピーバンドを演っている方であれば「あの曲のイントロで使われているあの音色」に一番近い音をプリセットの中から選んで使うことなると思いますが、
- 「なんだかちょっとイメージが違うなあ・・・」
- 「本物はもうチョット明るい感じなんだけど・・・」
- 「なんか違うけど、何が違うのかワカラナイ」
といった経験をだれしも持っていると思います。
・・そんなあなたに朗報です!
実はちょっとしたコツさえ掴めば、イメージ通りの音色や、全く新しいオリジナル音色をプリセット音色から簡単につくり出すことができるのです!これだって立派なシンセの音色作りといってよいでしょう。
そしてこの「シンセ音作りのコツ」は、ほとんどの機種に共通することなので、ぜひこの機会にマスターしてください!今回は「音の出だし」について。
第二問!
この音は某シンセのプリセット音色を弾いたものですが、さて何の音色でしょう?・・・ヒント:アコースティック楽器です。
オーボエ?バスーン?残念ながらどちらも不正解です。実はこれ、シンセ本体にあるたったひとつのツマミを回して作った音色なのです(作成時間は5秒!)
それでは正解発表。演奏しながらツマミを徐々に元に戻してみます・・すると・・
・・・・・いかがでしょう?正解は三味線(蛇味線)です。当たった人はかなり耳の良い方ですね!
このように、音の鳴り始め=「音の出だし」を変えるだけでまったく異なる楽器として聞こえてくるのは面白いと思います。
重要なアタック音
さて、普段私たちは、明るい、暗い、高い、低い・・・といった様々な音の要素を聴き比べて「これは◯◯の楽器だ!」と判別しています。そしてこのクイズが示す通り、「音の出だし(アタックと呼びます)」というのは何の音かを認識する上で非常に重要であることがいえると思います。
どのツマミを触れば良いのか?
シンセサイザーは「パラメーター」と呼ばれる色々な値を、ツマミやスライダーを動かすことによって音色を作成することができます。膨大な数のパラメーターを持っている機種もありますが、
この手の製品はマニアは喜びそうですが、一般の方は尻込みしてしまいそうですね。
しかし
実はキモとなるパラメーターはある程度決まっているので、4~5種類のパラメーターを覚えるだけで最初はokなのです(これホント)
これでも十分音作りはできるのです
↓↓↓↓↓↓
RolandのJUNO-Diというシンセにはツマミはこれだけしかついていません・・割りきってますね。
プリセット音色を大別する
先ほど「音の出だし」で音色のイメージの大部分が決まってしまうということをお話いたしましたが、この時間的な音量の変化をコントロールして音色を作ってみることにしましょう。
その前にまずは「音が鳴り始めて消えるまで」の特徴ごとにプリセット音色をグループ分けしてみます。発音の特徴から音色を考えると、実は楽器の音というのは大きくわけて次の2種類があります。
1)減衰音系
シンセの場合:鍵盤を押さえたままでも「音が消えていく」音色
例)
ピアノ、ギター、ベース、ベル、打楽器など
モデルとなっている楽器は、何かを叩いたり、弦をはじいたりして音が出るしくみですね。例えばギターの場合は、弦をピックで弾くと弦が振動して音になるわけですが、いずれは振動は収まる(徐々に音が消えていく=減衰する)わけです。こうした楽器を減衰系と呼ぶことにしましょう。
弾いた瞬間「コンッ」と鳴っておしまい・・という減衰時間が極端に短い音もあります(木琴など)。なおこの音量がゼロになった状態は「持続音量(サスティーン・レベル)がゼロである」という表現をします。またサスティーンレベルに到達するまでの時間を「ディケイ・タイム」と呼びます。
音量変化のイメージ
2)持続音系
シンセの場合:鍵盤を押しているあいだ「音は鳴ったまま」になる音色
今度は鍵盤を抑えている間は音が鳴っているので、サスティーン・レベルはゼロではありません。
例)
ストリングス、オルガン、管楽器(※)など
ストリングスの場合は弓を止めることなくこすり続けることで音を伸ばしっぱなし(持続)させることができるわけです。パイプオルガンの場合はモーター(昔は人力の「ふいご」を使っていました)が回ってパイプに空気を送り続け、音を延ばすことができます。
管楽器は息を管に吹き込んで音を出す楽器。本来であれば人間の息の続く時間には限界がありますのでいずれは音は消えることになりますが、シンセに入っているブラス系音色は大部分が持続音系になっています(※)
※息を口から吹き出すと同時に鼻から息を吸う「循環ブレス(循環呼吸法)」という特殊テクニックを使用すると、長時間の切れ目なし発音が可能です(要訓練)。
音量変化のイメージ
音量変化とADSR
さて以上の二種類に大別される音色ですが、前述の減衰時間(ディケイ・タイム)と持続レベル(サスティーン・レベル)の他に
鍵盤を弾いてから音が出てくるまでの時間=「アタック・タイム」
鍵盤を離してから音が消えるまでの時間=「リリース・タイム」
というものもシンセサイザーではコントロールすることができます。実は音当てクイズの三味線は、このアタック・タイムを変えていたのですね。
ここまでをまとめると。音の出だしから音が消えるまでの要素は
- 「ATTACK TIME(アタック・タイム)」⇒鍵盤を弾いてから音が出てくるまでの時間
- 「DECAY TIME(ディケイ・タイム)」⇒サスティーン・レベルに到達するまでの時間
- 「SUSTAIN LEVEL(サスティーン・レベル)」⇒鍵盤を押している間の音量
- 「RELEASE TIME(リリース・タイム)」⇒鍵盤を離してから音が消えるまでの時間
以上の4つがあるわけです。
これらの音の鳴り始めから消えるまでの時間的な音量変化をコントロールするパラメータは、それぞれの頭文字をとって「ADSR(エーディーエスアール)」呼ばれることもあります。またこのADSRを生み出すセクションを「Envelope Generator」=エンベロープ・ジェネレーター(以降エンベロープ)といいます。機種によっては「ENV」「EG」といった表記がされていますね。
※今回はあくまで「音量」の時間的変化について紹介しています。エンベロープは音量(Amplifier)以外にも「音色を時間的に変化させる場合」にも使用されますが、それはまた以降「フィルター」の回でご紹介します。
イメージ
アタック、ディケイ、リリースは「タイム」=時間で、サスティーンだけは「レベル」=量・・ということに注意。
なお場合によっては「タイム」と「レベル」は省略されて単に「アタック」「ディケイ」「サスティーン」「リリース」と呼ばれる場合もあります。そしてこのエンベロープ・ジェネレーターの信号がシンセの音量セクション「アンプ」部分を変調することで時間的な音量変化を生み出すことができます。
イメージ
では減衰音系と持続音系の音色のイメージを図で確認してみましょう。(図はiZotope社のソフトシンセirisの画面を使っています)
減衰系の場合(サスティーン・レベルはゼロになる)
※表示されている数値は目安の秒数と考えてください
1) アタック・タイム:速い、リリース・タイム:短い
例)マリンバ、ピアノ、ギター等。ディケイタイムで減衰時間が決まります。自然の摂理で音域が低くなるに連れ減衰時間は長くなっていきます。
2) アタック・タイム:速い、リリース・タイム:長い
例)ベル、チャイム、打楽器等
3) アタック・タイム:遅い、リリース・タイム:短い
生楽器ではあまりないですねこのパターン
4) アタック・タイム:遅い、リリース・タイム:長い
これも。ゆっくり聞こえてきて、鍵盤を離すと余韻が残るタイプ。
持続音系の場合
1) アタック・タイム:速い、リリース・タイム:短い
例)オルガン、速弾きに適したストリングス、シンセリードなど
2) アタック・タイム:速い、リリース・タイム:長い
上記の図の場合は、鍵盤を離してから音が消えるまで30秒かかるということですね。
3) アタック・タイム:遅い、リリース・タイム:短い
4) アタック・タイム:遅い、リリース:長い
例)フワッとしたシンセパッドなど
というわけで、色々な楽器のエンベロープがなんとなくイメージできればここではオーケーです。
機種が変わっても機能は共通
さてエンベロープが何となく理解できたら機種が変わっても大丈夫!どのメーカーのシンセでもエンベロープの機能はほぼ共通なので心配ご無用!
StudiologicのSledge:表記はENV。FilterとAmplifierの2箇所にありますがこれについては後述します。
NORD LEAD A1:これもENV
Rolandのソフトシンセ SH-2
応用編:ストリングス音色をブラス音色に変化させてみよう
では実際にADSRを変えて音作りをやってみましょう。たとえばこうしたリッチなストリングス音色があったとします。たいていのシンセには「synthe strings」のような音色名でプリセットされていると思います。
この音色の音量エンベロープはこんなイメージですね
アタック遅めで、サスティーンはゼロではなく、リリースは少々長め。したがって鍵盤を弾いてからゆっくり立ち上がり、抑えている間は持続し、鍵盤を離したらちょっと余韻が残る・・といったタイプの音色です。
ではこれを素早く立ち上がり、抑えている間は持続し、鍵盤を離し瞬間に音が切れる・・というシンセブラスに適した音量エンベロープに変えてみましょう。さてどうすればいいでしょうか?
そうです、この様に
「アタック早め」「リリース短め」という2つのパラメーターだけを変更すればよいのです。JUMPのイントロで使えそうな感じです(古)。
音の立ち上がりと余韻だけでも全くイメージの違う音作りができるのがお分かりいただけたと思います。エンベロープの中でもアタックとリリースは音を特徴付ける大事なパラメーターですが、この2つを変更するだけでも多くのバリエーションを生み出すことができるのです。
機種が変わってもOK
というわけで、キモになるパラメーターさえ覚えてしまえば、機種が変わっても怖気づくことはありません。
YAMAHAのMX49の場合は
下図の○印で囲んだ「KNOB FUNCTION」のスイッチを押すたびにツマミの役目が変わります。ランプが真ん中になっている場合はツマミの役目は左から「ATTACK」「DECAY」「SUSTAIN」「RELEASE」になるというしくみになっています。落ち着いて考えれば難しくはないですね。
というわけで音の鳴り始めと鳴り終わりをコントロールするだけでもかなりのことができるようになります。今回は時間的な音量変化をエンベロープでコントロールしてきたのですが、音質、すなわち「音のカラー」に関してはあえて触れていませんでした。
シンセ特有のあの「ビヨーン」とか「シュワーん」というのは音量が変わっているのではなく、音色が時間的に変わっているのです。ではそもそも明るい、暗いといった音色を変更するときはどのツマミを回せばよいのでしょうか?
それは「フィルター」と呼ばれるパラメーターになるのですが、フィルターについてはまた次回。それでは~
【関連記事】
【初心者のためのシンセ音作り】 その2 音色を変えるフィルター
【初心者のためのシンセ音作り】その3 ADSR+フィルターまとめ